SENPAI 9先輩がユニットバスの扉を叩くので、びくっとして「なに??」と大声をあげた。「ここに着替えを置いておくね」先輩も、私に聞こえるようにちょっと大きめの声。 いいや、もう!投げやりになって髪もカラダも隅々まで、家で洗うように全部洗っちゃった。 恐る恐る出ると、部屋の明かりが暗くなっていた。暖色の間接照明の灯りだけだった。 先輩に見えないように位置取って、すばやく下着を付けて男物のパジャマを着た。 洗濯したての匂いがした。 先輩は床に座って、3本目のビールを飲んでいた。 「髪も洗ったんだ。今日は泊まっていけるの?」私を見て、先輩が心配そうに聞いた。 「うん。」 私が小さく答えると、ほっとしたようにニコニコして 「こっちにきて。ここに座って」と手招きした。 「髪を早く乾かさないと、風邪ひくよ」そういって私を床に座らせると、 自分はベッドに座ってドライヤーを手に取り、後ろから私の髪を乾かし始めた。 手馴れている。やさしく髪を片手で揺らしながら乾かしてゆく。 この部屋で、誰かにしてあげていたのかな。 「熱くない?」 「美容師みたいね。なんか、慣れてる・・・」 「もうすぐ乾くよ~」先輩は無邪気に答えた。 私の複雑なキモチに気づきもしないで。 「さて、と」先輩はドライヤーを置くと立ち上がった。 胸が爆発しそうに、高鳴る・・・とうとう・・・なの?? 「さっき、電話を切った後に買ってきたんだ。」 そう言って先輩はキッチンに行くと冷蔵庫を開けて、瓶を取り出した。 それはピンク色のスパークリングワインだった。 ワイングラスを2脚、一緒に持ってきて座る。 グラスに注ぐと、泡が立ちのぼって、ほの暗い部屋の中に甘ったるい香りが広がってゆく。 「ほら、こうすると綺麗だよ」先輩はグラスを間接照明に向けて私に見せた。 プクプクと気泡が下から上へ上がってゆく。ピンク色が明るく輝いてきれい・・・ 「ほんとだね。」顔をグラスに近づけて見る。 「飲む前にキスする?キスしてから飲む?」先輩が私の顔を覗き込んでまじめに聞くので、 思わず噴き出した。 「それって、どっちも同じじゃない(笑)」 「あはは。バレた?」先輩も笑った。 「乾杯してからにする(笑)」 私がそう言ったのに 「やっぱ、キスが、先だ・・・」 そう言い終わらないうちに先輩のくちびるが近づいてきて、私たちは口づけた。 ああ、ずっと、こうしたかったんだ、私・・・ 私は、まだ味わっていないこのピンクのスパークリングのように ココロが甘く泡立ってゆくのを、感じていた。 |